当院の消化器外科では肛門疾患も大腸肛門病学会専門医が中心となり診察しています。
内痔核、痔瘻、裂肛はもちろん、直腸脱も多く手術しています。直腸脱は手術をしても再発が多く、治療が難しい病気です。当院では工夫を凝らした手術で再発を減らしています。
術式は病状の進行に応じてアルテマイア法+腹腔鏡下腸管固定術、腹腔鏡下直腸固定術、アルテマイア手術、デロルメ手術のいずれかを適切に行います。池田、箕面、豊中、池田、川西など近隣の方や遠方の方でも、おしりの悩みで困っている患者さんは一度かかりつけ医に相談の上、紹介状を持参し受診して下さい。
消化器外科
直腸脱は大きく完全直腸脱と不完全直腸脱に分類されます。完全直腸脱は直腸の筋層が肛門から脱出する状態(図1)であり、不完全直腸脱は粘膜のみが脱出する状態です。直腸脱の手術法は大きく分けて腹式と会陰式に分けられます。腹式は直腸周囲を剥離した後、直腸を吊り上げ、糸、またはメッシュで仙骨に固定する方法です。会陰式は脱出腸管を押し込む術式のガント三輪法(図2)+肛門縫縮術(ティルシュ法)とデロルメ法(図3)、また、脱出腸管を切除して腸管を肛門に縫合する術式のアルテマイア法(図4)があります。会陰式は手術侵襲が少なく、高齢者に適していますが、再発が多いとされています。当院では過去8年間で初発のデロルメ法で24%、アルテマイア法で34%の再発がありました。腹式の縫合固定術でも38%の再発があり、どの術式も再発率は高いと言えます。メッシュを利用した直腸固定法(図5)では、再発は少なくなるといわれますが、メッシュ感染、腸管内へのメッシュの露出、直腸の狭窄のリスク、直腸癌が発生したときに癒着のため根治手術に難渋する恐れがあります。そのため、当院では極力、メッシュ使用を回避し、糸で縫合する術式(図6)を選択してきました。一般的に再発率の点については国内外のデータをみると腹式アプローチの方が成績は良いとの報告が多いですが、欧州で行われた大規模の前向き臨床試験(PROSPER試験)では会陰式のアルテマイア法、デロルメ法、腹式の縫合直腸固定術で5年の再発率は各々、41, 46%および、37%となり、大きな差はありませんでした。さらに、客観的術後の肛門機能評価も有意差は認められず、術式に優劣は認めませんでした。
そこで、当院では再発を減らすためアルテマイア法+腹腔鏡下腸管固定法(略称Lap Altepexyラップアルテペクシー) という新し術式を考案しました(図7)。これはアルテマイア法の後に腹腔鏡操作で骨盤の骨に引き上げたS状結腸を縫合固定するやり方です。この方法ですと余剰腸管を切除し、さらに、縫合固定によりS状結腸の骨盤底への落ち込みをなくし、再発を抑えられることが期待できます。ラップアルテペクシーの欠点は会陰操作に加え腹部操作をするため、腹腔鏡のための腹壁にポート孔が4つ(臍部12㎜、その他5㎜)が増えることと手術時間の延長(約30分)が挙げられます。腹腔内操作は仙骨の前の腹膜を約2cmだけ切開し、靭帯を同定し、そこに引き上げた腸管を糸で固定します。腹腔鏡手技による偶発症は血管損傷、癒着、腹部の創部の感染やポート孔ヘルニア(主に腸管が穴にはまり込んで腸閉塞を起こす)などが考えられます。また、アルテマイア法の操作に伴う偶発症は出血、総合不全(腸と肛門のつなぎ目が漏れること)、骨盤内膿瘍などが考えられます。以上、偶発症の頻度はゼロではありませんが、数%程度と考えています。
当院では全身の健康状態や持病を考慮し、直腸脱の術式を十分に吟味し選択しています。しかし、前に述べたように一般に広く行われている手術法では国内外を問わず、再発率が余りに高く、決して満足できる成績ではありません。そこで、再発率を減少させる手術の考案が必要と考えました。今回、試みる新しい術式のラップアルテペクシーに関しては世界でこれまで報告がないので明確な安全性と有効性はまだ不明です。しかし、これまで当院で多く施行してきたアルテマイア法に短時間の腹腔鏡下手技が少し加わることでリスクがそれほど増加すると思われず、再発を減らす可能性があることを納得いただければ、評価する価値のある術式であり、是非受けていただきたいと考えています。当院ではこの術式を受けることに同意いただけない場合は従来のやり方でこれまで通り行います。
以下、図1-5,7は辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科 赤木一成先生が作成の図から引用あるいは改変
図1 直腸脱の状態
図2 ガント-三輪法
図3 デロルメ法
図4 アルテマイア法
図5 直腸メッシュ固定術
図6 直腸縫合固定術 (海外文献から引用)
図7 Lap Altepexy (完成図)
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