当院では2006年からヘルニア外来を開設しており、2018年は168例の⼿術をしています。対象となる疾患は、⿏径ヘルニアや⼤腿ヘルニア、臍ヘルニアなどお腹の表⾯(腹壁)のヘルニアです。 ヘルニアとは、ラテン語の「脱出」を意味するherniaに由来しており、腹壁のヘルニアは、腹膜に覆われた状態でお腹の中の腸管や脂肪が脱出するため、世間では「脱腸」と⾔われたりします。 腹壁のヘルニアの中で最も多いのは⿏径ヘルニアです。⿏径ヘルニアは⿏径部の筋⾁や筋膜が緩んでくることで、⿏径管という、睾丸へ続く精管の通り道(⼥性は⼦宮を固定する円靭帯が⾛⾏します)から腹膜に覆われた腸管や脂肪が脱出して、⿏径部が膨隆します。加齢現象が主な原因なので⾼齢男性に多くみられますが、若い⽅でもみられたりします。また、咳をよくする⽅や便秘がちな⽅、腹圧のかかる仕事・運動をされる⽅、前⽴腺の⼿術を受けられた⽅はリスクが⾼いとされています。
ヘルニアは様⼦を⾒ていても良くなることはなく、次第に増⼤して段々と戻りにくくなります。ヘルニアが戻らなくなって、腸管や脂肪が⾎流障害を来した病態を嵌頓といいますが、この状態で時間が経つと腸管が穿孔して腹膜炎に⾄ります。これらの理由からヘルニアは治療が必要ですが、圧迫療法や薬物療法などは効果がなく、根本的な治療は⼿術しかありません。
ヘルニアの⼿術は多くの術式の変遷がありますが、従来の⽅法では再発率が⾼く、慢性疼痛といった合併症も⽣じるため、近年はメッシュを留置する術式が主流となっており、さらに最近は腹腔鏡⼿術も急速に拡まっています。National Clinical Database(⽇本の⼿術統計)によると、2017年に全国で約4万件のヘルニア⼿術が施⾏されていますが、この内、腹腔鏡⼿術は37%を占めています。 当院では10年以上にわたりKugel法という術式を第⼀選択としてきました。この術式はメッシュ(Kugel patch)を腹膜と⿏径管の⼊り⼝(内⿏径輪)との間に挿⼊することで、腹圧を利⽤して⽳を塞ぐことができる合理的な⽅法で、再発率は低く、慢性疼痛も殆どない術式です。⼀⽅、腹腔鏡⼿術(TAPP法)はお腹の中からヘルニアが出ていく⽳をよく観察できる、反対側のヘルニアも同時に治療できる、ヘルニアが嵌頓した場合の緊急⼿術にも有⽤といったメリットがあります。
左図はKugel法で⽤いる⾮吸収性のパッチです。右図は腹腔内から観察した写真です。
当院は4人の経験豊富なスタッフが中⼼となって術式の定型化を図っているため腹腔鏡⼿術導⼊後も合併症は少なく、さらに術後も2年間フォローすることで術後合併症や再発に対して対応できるようにしています。池田、豊中、箕面、吹田、川西など近隣にお住まいの方で、⿏径部が腫れてきた、⿏径部が痛むといった症状がある場合は、一度かかりつけ医に相談の上、紹介状を持参し受診して下さい。
臍(へそ)含めて3ヶ所孔を開けて手術します。
両側そけいヘルニアの症例です。左にはヘルニアの入り口が見えています。右は腸管が陥入している状態です。
腹膜を一旦剥がしてヘルニアを戻した後、メッシュを入れます。
腹膜を縫合して手術終了です。
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