当院での2018年の大腸がん手術件数は136件です。手術は、原則として腹腔鏡下手術を行っています。大腸がん手術では、ERASという手法を用いて患者さまの治療を行っています。今回は腹腔鏡下大腸手術とERASについてご紹介させていただきます。
腹腔鏡下大腸手術は、5mmの穴3個と10mmの穴2個とがんを摘出するための創部(4~6cm)で手術ができます。図1のようにポートの位置を決め、テレビモニターに腹腔内を映し出し、超音波切開装置で血管処理やリンパ節郭清を行い、小切開創から腫瘍を取り出します。
ERASとは、Enhanced Recovery After Surgeryの頭文字で「術後回復強化」の意味です。この手法を周術期にできるだけ多く適用させることで早期回復を促し、合併症率の低下や入院期間の短縮に寄与すると言われています。私が主任研究者で大阪大学関連病院で行ったERAS群と従来管理群の多施設共同試験前向き比較試験では、ERAS項目の平均遵守率が84.7%で、その遵守率が高い患者さまほど入院期間が有意に短縮しました。また合併症に関しては、有意差は無かったものの減少傾向にありました。さらに、最新の話題では、ERAS管理は、がん患者さまの長期予後に影響する可能性まで報告されていますので、今後ますます注目されていく管理法です。
ERAS プロトコール | 従来パス | |||
---|---|---|---|---|
術前からの患者教育 | あり | なし | ||
結腸切除術での前日の腸管前処置
(マグコロールP) |
右側結腸手術ではなし
左側結腸、直腸手術ではあり |
全例腸管前処置 | ||
手術当日の麻酔開始3時間前の等張エレンタール540ml 服用 | あり | なし | ||
術中の麻酔管理の工夫(術中過剰輸液回避) | あり | なし | ||
結腸切除術でのドレーン留置 | なし | あり | ||
帰室後完全覚醒時からの座位 | あり | なし | ||
帰室後完全覚醒時からの飲水開始(500ml目安) | あり | なし | ||
術後1日目輸液終了、朝から食事摂取開始 | あり | なし | ||
ガム咀嚼、緩下剤と蠕動亢進薬の服用 | あり | なし | ||
術後1日目からの歩行目標の設定 | あり | なし | ||
腸蠕動亢進薬の使用 | あり | なし | ||
膀胱カテーテル早期抜去 | あり | なし |
当院では、2015年6月からERASプロトコールを開始しました。開始にあたり、円滑な導入のためERASチームを立ち上げ、予想される問題点を麻酔科医と多職種のスタッフとで話し合い、ERASパスを作成しました。その成果もあり、ERAS管理群の大腸がん手術後の経過は従来管理群に比べて腸管機能の回復が早く、食事摂取が翌日から開始でき、合併症を増加させず、安全に施行できています。更に上を目指すためERASチームでは継続的に話し合いを行っています。
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